Wednesday, June 15, 2011

『曾根崎心中』と『ディドとエネアス』

ジャンルの違う歴史を横で結ぶと、思わぬ発見があったりするものです。
例えば、西洋音楽の歴史を日本の歴史と重ねてみる。
全く切り離された2つの世界だけど、なんとなく共通点があるような。。。

例えば、バロック後期、バッハやヘンデルの時代。
彼らが生まれた年は1685年。
日本では「生類哀れみの令」(1687)を出した徳川綱吉の時代。
文化面で言うと、元禄文化
元禄文化は元禄時代(1688-1707)を中心に、主に
京都や大坂(大阪)など上方を中心に栄えた文化。
絵画の世界では琳派の創始者尾形光琳(1658-1716)

『八橋図』六曲屏風二隻

文学の世界では、『好色一代男』(1682)井原西鶴(1642-1693)
『奥の細道』(1702)松尾芭蕉(1644-1694)
そして『曾根崎心中』(1703)近松門左衛門(1653-1725)

『曾根崎心中』の物語は元禄16年(1703)4月に曾根崎・露(つゆ)天神の森で起こった
大阪堂島新地の遊女はつ(21歳)と内本町醤油商平野屋の手代である徳兵衛(25歳)の
心中事件を元に書かれた物語。




この演目を皮切りに、「心中もの」ブームが起こり、困ったことに
「心中」そのものもブームになってしまった事から、江戸幕府が
享保8年(1723)に上演を禁止すると共に、心中した者の葬儀自体、
禁止するという措置を取ったそう。

西洋の世界でも古代ギリシャから「悲劇」に「悲恋」は付きものだけど、
バロック時代のイギリスを代表する作曲家ヘンリー・パーセル(1659-1695)
歌劇『ディドとエネアス』も悲劇。
Henry Purcell(1659-1695)
Henry Purcell (1659-1695)

古代ローマの大詩人・ヴェルギリウスの建国叙事詩「アエーネアス」
(エネアスのこと)の物語を題材にしていて、ギリシャに滅ぼされ、新たな故郷を
求めさまようトロイアの名将エネアスと、カルタゴの女王ディドの悲恋の逸話を
当時の流行劇作家ネイハム・テイトが、テイト自作の戯曲『アルバのブルータス
(Brutus of Alba)』(『アエネーイス』を翻案したもの)を更に音楽劇用に
改作したものだそうだが、パーセルの音楽がディドの様々な心情の変化を
絶妙なタッチで表現していて、何度聴いても心が揺さぶられる曲です。

歌劇のアリアの中でDido's lament(ディドのラメント)として有名なのが、
自ら命を絶つ事を決意したディドが姉妹で侍女のベリンダの腕の中で歌う
『わたしが地中に横たえられた時』("When I am laid in earth")。



『ラメント(悲歌)』と呼ばれるには訳があります。
10小節目からバスのラインに注目してください。
そこには悲劇や悲運を現すlament bassが。

G-F#-F♮-E♮-E♭-D-B♭ -C- D-G
┃↘ ↘ ↘ ↘ ↘┃m3↘M2↗M2↗P5↘┃


冒頭の半音階で完全4度下がる動きをchromatic forthと言い、
このラインがバスに入っていると、悲劇、悲運、深い悲しみ、
そして死を暗示していることが多いのです。
このディドのラメントは特に最初のGから最後のGまで、
1オクターブも動きます。
それはまるで地に沈んでいくような深い悲しみと、
これから地に横たわる自分を重ね合わせて表現しているよう。
この何度も繰り返されるバスのフレーズ、或はモチーフは
Basso Ostinato或はground bassと呼ばれ、
バロック時代を代表する作曲法のひとつです。
オスティナード(Ostinato)は、ある一定の音型(パターン)を
楽曲全体、或はまとまった楽節全体を通して同一声部で、同じ
音程の高さのまま、たえず繰り返すことを言います。
それがバス声部にあるから、Ostinato Bass / ground bass。
土台部分となる低音部にあるため、曲の和声的な骨格を作っています。